
「うちは500万円未満の小さな工事や、応援の手間請けしかやっていないから、建設業許可なんて必要ないよ」
当事務所にご相談にいらっしゃる経営者や一人親方の方から、このようなお話を伺うことは少なくありません。確かに、建設業法という法律の原則としては、一定の金額に満たない「軽微な工事」であれば、許可を持っていなくても施工してよいことになっています。
しかし、現在の建設業界の現場では、この法律の原則とは少し違う動きが定着しています。具体的には、受注する工事が500万円未満であっても、元請け企業から「建設業許可を持っていなければ、次の現場からは入場させられない」とはっきり求められるケースです。
法律上は義務ではないはずの許可が、なぜ現場のルールとして求められるようになっているのか。そこには、建設業法の改正に伴うルール変更や、元請け企業側が守らなければならないコンプライアンス(法令遵守)の明確な背景があります。
今回は、法律が定める正確な基準を確認した上で、元請け企業がなぜ金額に関わらず許可を求めるのか、そして許可を取得することにどのような経営上のメリットがあるのかを、行政書士が分かりやすく解説します。
目次
建設業許可の基本ルールと「500万円」の計算における注意点
まずは、法律上の基本的なルールから確認していきましょう。ここを曖昧に理解していると、知らず知らずのうちに無許可営業(法律違反)になってしまうおそれがあります。
法律上、許可を受けずに請け負ってもよい「軽微な工事」の基準は、以下のように分類されています。こちらの表をご覧ください。
許可を受けずに施工できる「軽微な工事」の基準
| 工事の種類 | 許可が不要な条件 |
|---|---|
| 建築一式工事 | ・1件の請負代金が 1,500万円未満(税込) ・または、延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事 |
| 建築一式工事以外(土木一式工事、および専門工事27業種) | ・1件の請負代金が 500万円未満(税込) |
大工、左官、電気、内装、とび・土工といった専門工事を営む下請業者の皆様が関係するのは、後者の「500万円未満」という基準です。ただし、この請負代金を計算するときには、実務上で見落としがちなポイントが3つあります。これらは行政のガイドライン等でも厳しく定められている事実です。
① 金額は「消費税込み」の総額で判断します
最も多い誤解が、「税抜で480万円だからセーフだろう」という思い込みです。法律上の請負代金は、消費税を含んだ総額で判断されます。 例えば、工事本体の価格が460万円であったとしても、消費税(10%)を加算すると506万円になります。この時点で500万円以上の工事になりますので、建設業許可がなければ受注することはできません。
② 元請けから支給される「材料費」も合算しなければなりません
「元請け企業からキッチン設備や資材を無償で提供してもらい、うちは手間請け(人工代)として300万円で請け負ったから大丈夫」というケースも注意が必要です。
建設業法では、元請けから無償で支給された材料等の市場価格(時価)と運送費を、手間請け代金に足して判断すると規定されています。手間請け代金が300万円でも、支給された資材の価値が250万円であれば、合計550万円となり、許可が必要な工事に該当してしまいます。
③ 工事を細かく分ける「分割発注」をしても合算されます
「1件の工事契約を2枚に分割して、それぞれ250万円ずつに契約を分ければ500万円未満になるから許可はいらないだろう」という方法は認められません。
正当な理由(工期が全く別など)がない限り、同一の建設業者が同一の工事を分割して請け負った場合は、それらの金額をすべて足した総額で判断されます。合理的な理由のない分割発注は、法を免れるための行為とみなされ、無許可営業として処罰される対象となります。
元請け企業が金額に関わらず許可を求める背景
法律上は500万円未満であれば許可は不要であるにもかかわらず、元請け企業が下請けに対して一律で許可を求めるのには、主に3つの公的な背景があります。
① 建設業許可の要件になった「社会保険への加入」の確認
会社や一定規模以上の個人事業所が社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)に加入することは、以前から社会保険の法律で義務付けられていました。
しかし、2020年10月の建設業法改正によって、この「適切な社会保険への加入」が、建設業許可を取得・更新するための『許可基準(絶対条件)』に直接組み込まれたのです。つまり、未加入の状態では許可の窓口で一切受け付けてもらえなくなりました。
元請け企業は、下請業者が社会保険に入っているかを確認する義務があります。そこで、「建設業許可を持っているか」を確認するだけで、「この会社は国や県から社会保険完備のお墨付きをもらっているな」と判断できるため、確実な確認の目安として使われているのです。
② 施工体制台帳や再下請通知書への「法的記載義務」
一定規模の現場において、元請け企業には「施工体制台帳」というものを作成する法的義務があります。また、下請けの皆さんが提出する「再下請通知書」にも、建設業許可の有無や許可番号を書くことが、法律上の必須事項となっています。
最近は、大手ゼネコンやハウスメーカーを中心に、こうした安全書類の管理をデジタルシステムで行うようになりました。
システムが自動で業者を現場から弾き出すわけではありませんが、元請け企業のコンプライアンス部門が社内の書類チェックや審査を行う際に、「許可を持っている業者」のほうが法律上の確認がスムーズに進むため、発注の優先度が高くなっているという実務上の事情があります。
③ 無許可業者への発注に伴う「元請け側のリスク」回避
万が一、下請業者が先ほどお話しした「資材の合算」などの計算を見落として、結果的に500万円以上の工事を無許可で施工してしまった場合、処分されるのは下請業者だけではありません。 発注した元請け企業もまた、不適正な下請契約を結んだとして、行政から「指示処分」や「営業停止処分」といった行政処分を受けるリスクを負うことになります。
元請け企業としては、自社の経営を守るための防衛策として、最初から許可を持っている業者に限定して発注を行う傾向を強めています。
500万円未満の段階で許可を取得する経営上のメリット
元請け企業から言われたから仕方なく、というだけでなく、早い段階で建設業許可を持っておくことは、皆さんの会社の経営基盤を強くする上で多くのメリットがあります。
許可の「ある・なし」で会社の状況がどう変わるか、こちらの比較表を見ていただくと分かりやすいかと思います。
建設業許可の有無による経営環境の違い
| 比較項目 | 建設業許可が「ない」状態 | 建設業許可が「ある」状態 |
|---|---|---|
| 受注できる工事の金額 | 税込500万円未満の工事に限定される | 金額の制限がなくなり、大型案件も受注可能 |
| 元請けの確認手続き | 社会保険加入などの個別確認を求められやすい | 許可があることで、基本要件の確認がスムーズになる |
| 取引のポジション | 施工金額の制限上、下位の立場に留まりやすい | 一次下請への昇格や、施主からの「直受け」が可能になる |
| 金融機関からの信用 | 経営体制の公的な証明が難しく、融資で不利になりやすい | 自己資本や経営実績の証明となり、融資を受けやすくなる |
| 労務面での信頼性 | 法定環境(社会保険等)の確認に手間がかかる | 法令遵守企業として、求人や取引に有利に働く |
メリット①:受注できる工事の金額上限がなくなります
許可を取得すれば、当然ですが500万円以上の工事を制限なく受注できるようになります。これまで「金額が大きすぎるから」という理由で辞退せざるを得なかった案件にも対応できるようになり、売上のチャンスを逃さずに済みます。
メリット②:取引の立場が上がり、利益率が改善しやすくなります
建設業許可は、公的に「一定の施工能力と経営体制が整っている会社」であることの証明です。これにより、二次下請、三次下請という立場から、元請け企業と直接取引を行う「一次下請」へ昇格したり、お施主さんから直接受注する「直受け」へ移行したりしやすくなります。中間のマージンがなくなるため、手残りの利益を増やすことができます。
メリット③:銀行などの金融機関からの信用が高まります
事業を大きくするために融資を受けたり、新しい車両や重機を購入したりする際、金融機関の審査において建設業許可の有無は非常に重視されます。 許可を持っていることは、500万円以上の自己資本があることの証明であり、毎年の決算報告を欠かさず役所に提出している証拠にもなるため、資金調達の面で有利に働きます。
自社で建設業許可の申請する際の手続き上のハードル
建設業許可をご自身で申請される場合、役所に提出する確認資料の多さと、手続きの複雑さが主な障壁となります。実務上、特に以下の3点において手続きがストップしてしまうケースが多く見られます。
① 適切な経営管理体制(旧:経営業務の管理責任者)の証明
許可を取る上で、経営経験(原則5年以上)の証明は非常に重要です。手続きは、過去の状況によって大きく2つのケースに分かれます。
ケースA:過去に許可を持っていた会社の役員だった場合
当時の「許可通知書」や「決算変更届」の控えなどがあれば、役所は実績を認めてくれるため、比較的スムーズに進みます。
ケースB:許可を持たない状態での実績を証明する場合
無許可の個人事業主や法人の期間を証明する場合は、確定申告書の控えに加え、当時の「工事請負契約書」や「注文書・請求書」、さらに入金が確認できる「通帳原本」などの公的な裏付け資料を長期間分揃える必要があり、事前の綿密な精査が不可欠です。
② 営業所専任技術者(営業所技術者)の証明
営業所に配置する技術者について、施工管理技士などの国家資格を持っていない場合は、原則として10年以上の実務経験を証明しなければなりません。このケースでは、過去10年間にわたる施工実績資料を網羅的に集める必要があり、非常に緻密な作業となります。
③ 平日に何度も役所を往復する時間的な負担
申請書類に不備や記載ミス、添付漏れがある場合、役所の窓口で修正や追加資料の提出を求められます。そのため、平日の日中に何度も役所へ足を運ぶ必要が生じることがあります。社長ご自身がこうした事務作業に時間を取られてしまい、本業の現場運営に影響が出てしまうケースも少なくありません。
まとめ:機会損失を防ぐために、まずはご相談ください
現在の建設業界において、建設業許可は単に「500万円以上の工事を受注するためだけのもの」から、「法令を守り、しっかりとした体制を整えている企業であること」を証明するための重要な指標へと変化しています。
元請け企業から許可の取得を求められたタイミングは、自社の体制を見直し、経営を次の段階へと進める良いチャンスでもあります。
しかし、自社が本当にどのケースに当てはまり、どの書類を集めれば最短で申請できるのかを、現場を動かしながら正確に判断するのは簡単なことではありません。
当事務所では、建設業許可に特化した行政書士として、皆様のこれまでの経歴や手元にある書類を確認し、現在の状況でどのような申請ルートが最適か、不足している書類をどう補えばよいかを迅速に診断いたします。




事務所横に1台分の駐車場をご用意しております。
行政書士 佐藤勇太
